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心虚血再灌流障害におけるアルドース還元酵素の役割の解明

アルドース還元酵素とは?

アルドース還元酵素(AR)はポリオール経路を構成する酵素で,本経路はNADPHを補酵素としてグルコースをソルビトールに変化するAR,さらにNAD+ を補酵素としてソルビトールをフルクトースに変換するソルビトール脱水素酵素(SDH)より構成されています。

本経路亢進は糖尿病性網膜症,腎症および神経障害といった合併症発症に関る主要な機序の一つとして考えられており,高血糖状態では細胞内のポリオール経路の代謝亢進による補酵素の過剰消費が組織障害を引き起こすと考えられています。

一方でARはグルコース以外にも有毒なアルデヒドの解毒酵素として働くことから,心臓保護因子であると報告されています。

我々は心臓の虚血再灌流障害におけるARの役割について研究しています。

アルドース還元酵素の心虚血再灌流障害における役割(1)

ARの心虚血再灌流障害における役割を解析するために我々はヒトARを高発現するトランスジェニックマウス(AR-TG)を用い実験を行っています。

心虚血再灌流負荷による心機能の変化はLangendorff法*により検討しています。

*Langendorff法:摘出した心臓の大動脈より逆行性に灌流液を流すことにより、冠動脈から心筋を灌流する。左心室内に挿入したバルーンにより心機能を測定する。

心臓を30分間完全に灌流を停止することにより虚血(ischemia)を負荷し,その後1時間の再灌流(reperfusion)を行ったところ、AR-TGでは同腹の野生型マウス(LM)と比較して左心室機能の指標の一つであるLVDP(left ventricular developed pressure)が再灌流時に有意に低下しました。

 またAR阻害薬(ARI)およびSDH阻害薬(SDHI)を虚血の前にAR-TGの心臓に処置したところ、何れの薬物も低下したLVDPを回復させることが明らかとなりました。

アルドース還元酵素の心虚血再灌流障害における役割(2)

再灌流時の心筋細胞の傷害を灌流液中に漏出するクレアチンキナーゼ(CK)を指標に検討したところ、AR-TGではLMの2.5倍の漏出の増大が認められ、この増大はARI および SDHI の処置により有意に抑制されました。

虚血再灌流障害は心筋中ATP量が影響することが知られています。再灌流後の心筋中ATP量を測定したところAR-TGではLMと比較し有意な減少が認められました。 ARIおよびSDHIのの虚血前処置の効果を検討したところ、何れの薬物においても有意な心筋中ATP量の改善が認められました。

アルドース還元酵素を介するポリオール経路の亢進は心虚血再灌流障害を増悪させる

ARを介するポリオール経路の亢進は虚血再灌流時において心筋中ATP量を減少させ障害の増悪に関与することが明らかとなり,AR阻害薬は心虚血再灌流障害の新たな創薬ターゲットとなる可能性が示唆されます。

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