ドキソルビシン心筋障害におけるNOX1/NADPH oxidaseの役割
NOX1欠損マウスでは抗腫瘍薬による心繊維化が抑制
アントラサイクリン系抗腫瘍薬の副作用である心不全の発症には活性酸素種が関与することが知られていますが,その産生源や作用機構については明らかではありません。
そこで,ドキソルビシンによる心筋障害におけるNOX1の役割を検討しました。
心筋傷害後に誘導される過剰な心臓の線維化は左室拡張機能障害を悪化させ心不全の発症原因となります。
ドキソルビシンを投与した野生型マウスでは,血管周囲にシリウスレッドにより赤色で染色されるコラーゲン線維の増加が認められますが,NOX1欠損マウスでは増加は認められませんでした。
さらに心線維化をコラーゲン産生量(ハイドロキシプロリン量)およびフィブロネクチンのタンパク発現量を指標に検討したところ,いずれもドキソルビシンにより野生型マウスの心臓では上昇しましたが,NOX1欠損マウスで有意に抑制されました。
心筋細胞の傷害により放出されるDAMPs (damage-associated molecular patterns)はPRRs (Pattern recognition receptors)を介し心線維芽細胞の増殖を引き起こし,心線維化を誘導することが知られています。
心筋細胞におけるNOX1の心線維化における役割を明らかにするため,ゲノム編集法によりNOX1を欠損させた心筋芽細胞株 H9c2を作製しました。
野生型H9c2(Mock) の細胞ホモジネートをマウスより初代培養した心線維芽細胞に処置したところ細胞増殖の亢進が認められましたが,Nox1欠損H9c2のホモジネートでは細胞増殖は有意に抑制されました。
DAMPsである HMGB1, fibronectin-EDA およびS100A1 はTLR4を介し心線維化を亢進させることが知られています。
そこでHMGB1, fibronectin-EDA およびS100A1を欠損したH9c2を作製し,ホモジネートを心線維芽細胞に処置したところS100A1を欠損したH9c2において細胞増殖の抑制が認められました。
また,NOX1欠損H9c2細胞ではS100A1のmRNA発現が減少していました。
心筋細胞のNOX1はS100A1の発現調節を介して心線維化を促進
以上の結果から
ドキソルビシンによる心筋障害において心筋細胞のNOX1はS100A1の発現調節を介して心線維化を促進させることが明らかとなりました。