心筋細胞におけるNOX1/NADPH オキシダーゼの新たな細胞保護作用
NOX1欠損細胞ではカルボニル化合物に対する細胞生存率が低下
たばこ煙成分の不飽和カルボニル化合物であるアクロレインおよびメチルビニルケトンの細胞傷害誘導機構の一つに,NADPHオキシダーゼ(NOX)由来のスーパーオキシドや過酸化水素等の活性酸素種(ROS)が関与することが報告されています。
しかし何れのNOXサブタイプが細胞傷害に関わっているか明らかではありません.
我々はゲノム編集によりNOX1を欠損した心筋芽細胞株H9c2を用い,NOX1の関与について検討しました。
アクロレインおよびメチルビニルケトンの処置により,NOX1欠損細胞では予想とは反し、低濃度において生存率が低下しました。
NOX1欠損細胞では細胞内グルタチオン量が減少
アクロレインおよびメチルビニルケトンはグルタチオンにより解毒されます。
そこで細胞内の総グルタチオン量および還元型グルタチオン量を測定したところ,NOX1欠損細胞では有意に減少していました。
細胞内のグルタチオン量は原料となるシスチンの取り込み,律速酵素GCLの活性,およびグルタチオン排出トランスポーターであるMRP1により調節されています。
シスチントランスポーターxCTのタンパク質発現およびグルタチオン生成の律速酵素であるGCL活性に両遺伝子群間で有意な差は認められませんでした。
一方,グルタチオン排出トランスポーターMRP1の遺伝子発現は、NOX1欠損細胞で有意に増加していました。
そこで、NOX1欠損細胞におけるカルボニル化合物に対する脆弱性がMRP1発現上昇に起因するか明らかにするため、MRP1阻害薬reversanの効果を検討したところ、アクロレインおよびメチルビニルケトンによる細胞死が有意に改善されました。
NOX1はMRP1発現を介し,カルボニル化合物の細胞毒性に対して保護的に作用
以上の結果から,NOX1はMRP1発現を介し,細胞内のグルタチオンの量を調節することにより,アクロレインおよびメチルビニルケトンによる心筋細胞毒性に対して保護的に作用していることが明らかとなりました。